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成長の証
 ドラグーン王立学園は学力試験の時期をむかえていた。
 毎日繰り返される試験の連続にルインフィートはうんざりしていた。答案用紙と睨めっこしてはため息をつく。彼は勉強が得意ではないのだ。
 試験が終わると、彼には更に試練が待っている。良い点数を取れなかったものは補習授業を受けなければならないのだ。
 王子たるものが補習授業を受けなければならないとはと先生達は半ば呆れているが、そのぶん特別に力を入れてルインフィートを教室に束縛するようになった。
「これじゃあ城に居た時と変わらないじゃないか」
 ルインフィートは机にかじりつかされ、小声で文句を言った。
「普段からきちんと勉強をしていれば、こんな目には遭わないのですよ」
 というハルマースの声が聞こえてくるようだった。
 なんとか課題を終えて、ルインフィートは大好きな部活動の部屋へと駆け込んだ。急いで運動着に着替え、閉じ込められていた鬱憤を晴らすかのように動き回った。
 顧問の教師がルインフィートの剣術の稽古をつけていた。もはや生徒では彼の腕前にかなうものはいない。
 半ばやけになってひとしきり身体を動かして、ルインフィートはぐったりして寮に戻った。
 側にいるハルマースは苦笑いをした。
「暴れすぎですよ」
 へとへとのルインフィートは、彼を恨めしそうに見上げた。
「ハルマースは頭が良くていいよな」
 そんなルインフィートの言葉に、ハルマースは生真面目なしかめっ面で答えた。
「真面目に授業を聞いていれば、悪い点数なんてとらないものですよ。
 あなたは授業中一体何をしているのです」
「お説教はもういいよ」
 ルインフィートはふてくされてハルマースからそっぽを向いた。

 夕食を済ませると、寮生達は次々と入浴を済ませていった。ハルマースとルインフィートは最後に浴室へと赴いた。
 ルインフィートはいつもハルマースに身体を洗ってもらっていた。城に居たときも侍女が入浴の世話をしていた為、彼は自分でうまく身体を洗えなかった。
 ハルマースはタオルで石鹸を泡立て、ルインフィートの身体を洗い始めた。
 ルインフィートの身体はこの一年で急激に成長し、筋肉が付き始め骨格も出来上がりつつあった。
 椅子に座ってじっとしているルインフィートの視線が、ふと下に下がった。ハルマースの手が彼の太ももを洗い始めていた。
 毎日のように股まで洗ってもらっているのだが、ルインフィートは何故だか急に恥ずかしくなり、彼の手を掴んだ。
「ここは、自分で、洗う」
「どうかしました?」
 はっとなってハルマースは手を止めて顔を上げた。ルインフィートは僅かに頬を染めているようだった。
「さすがにちょっと恥ずかしいよ」
 ルインフィートはハルマースからタオルを取り、自分で太ももからその付け根へと手を動かした。
「ちゃんと洗わないとダメですよ」
 ハルマースの視線がルインフィートの手元に注がれた。
「そ、そんなに見ないでくれ……」
 ルインフィートの心臓は高鳴っていた。どういうわけかハルマースの視線が気になって仕方がなかった。
 いつもは普通に洗ってもらっているところだというのに。
 今日はいつもと違う気がしていた。身体の芯が熱く、妙なだるさがルインフィートを苛んでいた。
 そんなルインフィートの態度を怪訝に思って、ハルマースは改めてルインの股間を覗き込んだ。
「見るなって!」
 ルインフィートは慌てて足を閉じて股間を隠した。彼の股間の雄が勃ち上がりかけていたのだ。
 ハルマースは彼の身体の変化に気がつきはっと息を飲んだ。
「あ……その、し、失礼しました……」
 ハルマースは慌ててルインフィートから視線を逸らした。思わぬ事態に気が動転する。
「わ、私はあっちを向いていますから、どうぞ処理なさってください」
 しどろもどろの口調でハルマースは言った。拳が固く握られている。そんなハルマースの反応を見てルインフィートはますます恥ずかしくなり、心臓が張り裂けそうになっていた。
「しょ、処理って……どうすれば……
 一体僕の身体に何が起こったんだ」
 ルインフィートはもう一度自分の股間を覗き込んだ。その中心の部分はますますもってたちあがっている。
 ここがこんな状態になったのは初めてのことで、彼は自分の身に起こった変化をどうすれば良いのか全く分からなかった。
 ハルマースはルインフィートのほうを見ずに背中を向けたまま、小声でたずねた。
「まだ保健の授業で教えてもらってないのですか?」
 ルインフィートはうつむいた。言いづらそうに言葉を吐く。
「……保健の時間は、ほとんど寝ちゃってるから……」
 大きなため息がハルマースから吐き出された。彼はゆっくりと振り返り、再びルインフィートを見た。視線を下に降ろすと、さっき見たよりも上向いている。
 ルインフィートは耐えられなくなり、両手で顔を覆った。
「ハルマース、お願いだ。どうすればいいんだよコレ」
 消え入りそうな声でルインフィートはハルマースに懇願した。
 ハルマースもまた消え入りそうな声で、やっとの思いで言葉をつむいだ。
「……扱くんですよ。扱いて、精を解き放つんです」
 ハルマースの言葉にルインフィートは気が遠くなりかけた。こんなところを自分で弄れというのかと。
「ハルマース……」
 ルインフィートは恐る恐る顔を上げて、ハルマースを見上げた。
「ハルマース、お願いだ……して、くれないか……?」
 今度はハルマースが気が遠くなりかけた。ルインフィートは本当に何も知らないのだろう。精を解き放つという事がどういう事なのかを。
 ハルマースが返答に困っていると、ルインフィートはまた両手で顔を覆った。
「なんでこんなことが……」
 ハルマースは気を沈めているルインフィートがいたたまれなくなって、意を決して彼のすぐ隣にしゃがみこんだ。
 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「成長の証ですよ、王子。喜ばしいことです。
 あなたの身体が男として機能し始めたのです」
 頭の中の整理がついてきたハルマースは急に冷静に言葉を出せるようになっていた。ルインフィートは涙目で彼のことを見つめた。
「本当? 病気じゃない?」
「病気じゃありませんよ。男なら誰でもそうなります」
 ハルマースのその言葉に安心したのか、ルインフィートの表情が和らいだ。ハルマースは更に彼を安心させる為に、言葉を続けた。
「このところお疲れだったでしょう。お疲れのときは、そうなるものです」
 そっと肩を抱いてやると、ルインフィートは完全に落ち着きを取り戻した。そして恐る恐る自分のものに手を伸ばした。
「わかったよ。じぶんで、やってみる……」
 ルインフィートは自分のものを手中に収めた。ハルマースはほっと胸をなでおろし、立ち上がって後ろを向こうとした。
 しかしルインフィートが彼の腕を掴んで、やや頬を紅潮させながら彼を上目遣いで見つめた。
「側にいてくれないか?」
 ハルマースはどきりとした。思いつめ、切ない表情を浮かべているルインフィートに心を捕らわれた。
 彼は促されるまま、再びルインフィートに身を寄せてそっと肩を抱いた。

 ルインフィートは軽く息を吐いて、目を閉じて恐る恐る自分のものを扱き始めた。表現しがたい始めての感覚に戸惑いの吐息が漏れる。本能的に手の動きが早まり、呼吸も乱れ始めた。
「はぁっ、はあっ……あ、あッ」
 自然に漏れてしまった声にルインフィートは恥ずかしさを感じつつも、もう手を止めることは出来なかった。
 ルインフィートの脈が早くなり身体も僅かに震え始めたのを感じたハルマースは、絶頂が近いことを察して彼の背中をぎゅっと抱きしめた。
 ルインフィートは彼に背中を預けて、顔を仰け反らせた。初めての射精感が彼の背筋を駆け巡る。
「――あ、ああ……ッ、ハルマース……!」
 白濁が先端から勢い良く噴出し、ぽたぽたと床に垂れ落ちた。両足は小刻みに震え、崩れ落ちそうな身体をハルマースはしっかりと支えた。
 ルインフィートは荒い息をし、いつの間にか流していた涙で濡れた顔をハルマースに向けた。
「こ……これで、僕、大人になれるのかな……?」
 ルインフィートはハルマースにもたれかかり、笑顔を見せた。ハルマースにはルインフィートの身体がたいそう熱く感じられた。
「ご立派ですよ、王子」
 そういうハルマースの表情に笑顔はなく、視線は泳いで虚空を見つめていた。心臓は高鳴り、胸がはちきれそうだった。
 ルインフィートが達するときに自分の名前を呼ばれたせいで、妙な意識をせずにはいられなかった。
 彼は必死に気持ちを心の奥底に押し込めた。抱いてはならないその想いを。

 事を済ませて安心したのか、ルインフィートは急に元気を取り戻した。
 身体を洗いなおして貰いながら、彼はふとハルマースの股間のことが気になり始めた。ハルマースはいつも前を布で隠しており、その中を見せた事がなかった。
 ルインフィートは今自分がしたように、彼もすることがあるのだろうかと興味を持ち始めてしまった。
「ハルマース、見せろ」
「はい?」
 急に言われてなんのことやらと、ハルマースは小首をかしげた。お湯を汲み、ルインフィートの身体の泡を流した。
 ルインフィートは言葉を続けた。
「いつも僕ばかり見られててなんかずるいよ」
「何のことを仰ってるのですか」
 ハルマースがそういうや否や、ルインフィートは彼の腰に巻かれていた布を素早く奪い去った。ハルマースのものが露になる。
「…………!!」
 現れたその物を見て、ルインフィートは言葉を失った。
 何故ならハルマースの男性器は、自分のものよりもはるかに大きかったからだ。
「何をなさるのですか!」
 ハルマースは驚き、固まっているルインフィートから布を奪い返した。
 ルインフィートは暫く目と口を大きく開いて呆然となっていたが、ハルマースが再び布で腰を隠したのに気がつき我にかえった。
 急に悔しさのようなものがこみ上げてきて、ルインフィートはハルマースを睨みつけた。
「ま、負けないぞ、僕だっていつかそんな大きさに……」
 妙な対抗心にハルマースはどう反応したらよいのか分からなくなり、そのまま黙ってその場をやり過ごした。

 入浴を終え、部屋に戻るとルインフィートは勉強もせずにすぐに眠ってしまった。
 安らかな王子の寝顔を眺めいていたハルマースは、いつの間にか微笑みを浮かべていた。
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