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嫉妬
 蛇口をひねってお湯を出す。ルインフィートは浴室の壁に取り付けられている、じょうろ状の噴出孔から降り注ぐお湯を身体に浴びて汚れを洗い流していた。
 この街の水道は近年めざましい開発が行われており、ある程度の家には水道設備が完備されており衛生的な水を得ることができていた。湯沸かし器などの開発も盛んで、とりわけ機械的なものの開発も行っているザハンの家には、瞬時にしてお湯が沸くという最新式の湯沸かし器が設置されていた。
 湯を沸かす動力は、半永久的に燃え続ける魔鉱石というものが使われている。魔鉱石はその性質から取り扱いが非常に難しい物質だが、ザハンはその石を細かく砕いた後に特殊な方法で溶かし、再結晶化させ、用途に合った形や大きさに調整することで手軽に取り扱えるようにするという秘術の開発に成功していた。
 サントアークではまだこの設備は普及しておらず、石炭で炊くという原始的な方法がいまだに主流だった、ルインフィートはこの屋敷の主ザハンに、いずれサントアークにも来てこの技術を提供して欲しいと思った。
(ここの親子とは仲良くしておかなくちゃな)
 ルインフィートはそう自分に言い聞かせて、身体の中に出されてしまったものを掻き出そうと、自らの尻の割れ目へと指を伸ばした。肛門の中に指を挿れて、恐る恐る中を探ってみるが、相当深く放たれたらしく中のものをなかなかうまく掻き出せなかった。
 もっと奥を探らないといけないのかと思い、さらに指を伸ばしていきんでみる。苦戦して唸っているとき、不意に浴室の扉が開けられた。
 ルインフィートは飛び上がりそうなほどビックリして、思わず瞬時に尻に手を回したまま後ろを振り返った。
 扉の向こうから、服を着たままハルマースがゆっくりとルインフィートに近づいて来た。ハルマースは壁に手を伸ばして、頭上から流れるお湯を止めてルインフィートに尋ねた。
「話はおおおむね聞かせてもらった。寝起きを襲われたのか?」
 まっすぐにルインフィートに向けられたハルマースの視線が、不意に下に下がり、彼はルインフィートに続けて尋ねた。
「どうしてそんなところ弄ってるんだ?」
 ハルマースの問いかけを聞いて、ルインフィートの思考は完全に停止してしまった。あの少女によって自分とガーラの関係を全部暴露されてしまったのだと、そう思い込んで。
「あ、あの、その……ガーラに……中で出されちゃって」
「えっ? ……何を?」
 ハルマースは小首をかしげた。ルインフィートは顔を真っ赤に染めて、消え入りそうな声で彼に告げた。
「せ、せい……精子を……」
 ルインフィートの言葉を聞いて、ハルマースは一瞬そのままの真面目な表情で沈黙した。
「精……」
 呟きかけて、ハルマースは口ごもった。言葉の意味することを悟り、呆然とルインフィートの姿を見つめた。
「ローネさんは……あなたがガーラに牛乳をかけられたと……」
「ぎゅう……にゅう……だっ、て?」
 ハルマースの言葉に、ルインフィートも呆然となった。二人の間を沈黙が支配して、あまりの気まずさにルインフィートはハルマースに背を向けてしまった。
「牛乳かーうんうんそうだよ牛乳かけられちゃってもう俺ずぶ濡れで」
「こら! こっちを向け!」
 しらばっくれようとしても、もうごまかしは効かなかった。ハルマースは怒気を孕んだ声でルインフィートに声をあげると、肩を掴んでルインフィートの身体を自分のほうへと向けさせた。
「いや、ほんとになんでもないんだよ。ローネちゃんのいう事が本当だ。あの子が嘘つくわけ無いだろ?
 俺、なんか変な夢見ちゃってさ、そう、ガーラのヤツに尻を掘られたような……」
 ルインフィートはなおも白けたセリフを吐いて、へらへらと笑ってごまかそうとした。ハルマースは眉の箸を吊り上げて苛立ちを露にして、ルインフィートから手を離して黙って浴室から出て行ってしまった。
「ハルマース……!?」
 浴室の扉が荒々しく閉められて、ルインフィートは絶望に近い感覚に陥った。しかし直ぐにふつふつと妙な怒りがこみ上げてきて、浴室の扉の向こうにも響き渡るような大声で怒鳴り散らした。
「なんだよ! 薄情者! ちょっとは慰めてくれたっていいじゃないか!
 俺は被害者だぞ! ハルマースのアホ! バカ! 巨根!」
 その瞬間けたたましく扉が開けられた。そこには、むっとした表情のハルマースが、服を脱ぎ腰に布を巻いただけの裸の状態で立っていた。ハルマースはずかずかと床を踏み鳴らすように浴室に踏み込んで、瞬時にルインフィートとの距離を詰めた。
「もう一度聞く。ガーラに何をされたんだ?」
「だ、だから牛乳を……」
 ルインフィートはハルマースから目を逸らして、小さな声で拗ねるような口ぶりで言った。ハルマースはふんと鼻を鳴らし、あくまでシラをきろうとするルインフィートを睨みつけた。
「最初に言ったことが、本当なんだろう? 身体を調べれば直ぐに分かる」
 ハルマースはそう言うと、強引にルインフィートの身体を浴室の壁に腹ばいになるように押し付けた。浴室の壁はすっかり冷え切っており、たまらずルインフィートは声を上げた。
「つめた……!」
 逃げようとするルインフィートを、ハルマースは自らの身体を押し付けて阻んだ。そして彼は手をルインフィートの尻の割れ目に這わせて、その奥の孔の入口に指を挿した。ルインフィートの中は既に湿っており、指を奥深くに忍ばせて掻くと、中で放たれたものがハルマースの指を伝って外へと流れ出た。
「あっ……!」
 ルインフィートは短く声をあげた。心の準備もなく中を指でかき回されて、反抗もできずに肩を震わせた。どろりとした生ぬるい液体が太ももの内側を伝って、床にぽたぽたと垂れ落ちた。
「たくさん出てきましたよ、動かぬ証拠が……」
 ハルマースはルインフィートの耳元で囁いた。指を引き抜いて、白濁で湿って糸を引く指先を目の前にちらつかせる。ルインフィートは俯いて、何も言う事ができなかった。
「まだ残っているかもしれない。徹底的に掻き出さないと」
 ハルマースはそう呟くと、浴室に備え付けの椅子に座り、ルインフィートを膝の上に座らせた。足を広げて向かい合う格好にさせられて、ルインフィートは羞恥に頬を染めた。ハルマースの視線が、ルインフィートの股間に注がれる。ルインフィートのそれは僅かに首をもたげて勃ちあがろうとしていた。
「少し……勃ってきましたね。ガーラとの行為では物足りなかったのですか?」
「そんな……っ!」
 普段の彼からは想像もつかないような意地の悪い皮肉めいた言葉に、ルインフィートは言葉を失った。しかし打ちひしがれる時間も与えられぬうちに、ハルマースはルインフィートの尻に腕を回して再び中を探った。奥へ奥へと、念入りに中を確めるかのように。
「はぁ……あ……ッ」
 ルインフィートはハルマースの首に腕を回して抱きついて、熱い吐息を漏らした。ハルマースの眼差しが暗い光を帯びてゆらめいた。ルインフィートの後ろを弄る指に力がこもり、より一層彼の中を掻き回した。
「そうやって……甘い声を出して。ガーラを誘ったんですか?」
「ちっ……違……そんな、そんなこと……」
 ルインフィートは首を横に振って、必死に否定する。ハルマースはそんなルインフィートを、いささか疑わしい虚ろな眼差しで見据えた。
「違うといっても、身体はもう……ガーラを覚えているんだろう?
 ガーラに後ろを抉られて……そうやってイイ声を出して泣いたんだろう?
 今まで散々、ヤツと遊ぶ為に俺の目を盗んで会いに行ってたってわけだ」
 辛らつなハルマースの言葉は、ルインフィートの心に深く突き刺さった。反論する気力もそがれて、悲しみに暮れる。
 ルインフィートは顔を上げて、ハルマースを、願うような眼差しで見つめ返した。
「俺のこと嫌いになったのか? もう俺を、信じてくれないのか……?」
 目に涙を浮かべて酷く哀しそうな表情で、ルインフィートはハルマースに訴えかけた。ハルマースははっと息を飲んで、ルインフィートの腰から手を離した。
 ルインフィートはハルマースの背中に手を回して、胸に顔を埋めてぽろぽろと涙を流してしまった。
「嫌だ……ハルマース、俺から離れて行かないでくれ……」
「ま、待て、泣くな、泣かないでくれ」
 ハルマースは慌ててルインフィートの肩を掴み、顔を上にあげさせた。ルインフィートの顔は涙に濡れて、酷く傷ついた瞳でハルマースを見つめていた。
 ハルマースはルインフィートの頬を伝う涙を手で拭い、そっと優しく抱きしめ返した。ハルマースにとってルインフィートは太陽のような存在だった。いつでも明るく大らかで、いつも笑顔で周りのものを包み込んでいる。
 その彼の目に涙が宿り、悲しみにくれる姿など、滅多に見れるものでは無い。
「これは……ただの、やきもちだ……。酷い事を言って申し訳なかった」
 嫉妬に任せて彼を泣かせてしまった罪悪感に包まれながら、ハルマースはルインフィートを抱く手の力を強めた。頭を撫でると、濡れた髪から冷たい滴がぽたりと垂れた。
「本当か? 俺のこと嫌いじゃない?」
 鼻水を啜りながら、ルインフィートはハルマースの顔を見上げた。ハルマースはルインフィートの頬の涙の筋を、ぺろりと舌で拭った。
「すまない……本当にすまなかった」
「ハルマース……」
 ルインフィートの涙が止まり、かわりに笑顔が戻っていた。ハルマースはルインフィートの顎を軽く掴んで引き寄せて、その唇を吸った。ルインフィートは薄く口を開いて、顔の角度を変えて彼に応えた。
 ハルマースと口付けを交わすうちに、ルインフィートの身体から力が抜けてしまい、顔を離したふとした瞬間にふらりとよろめいて彼はハルマースの膝の上からずれ落ちて床にぺたりと尻をついてしまった。
 ハルマースは咄嗟にルインフィートの腕を掴んで、彼を引き上げて再び自分の上に戻そうとしたが、何を思ったのか逆にルインフィートの肩を床へと押し付けた。
 冷たく固い床の上に背中を押し付けられて、ルインフィートはたまらずに身を震わせた。
 ハルマースはルインフィートの上にのしかかって、彼の首筋を舐め上げた。そして手は下方へと伸ばして、やや落ち着きを取り戻していたルインフィートの雄をそっと包み込んだ。
「こ、こんな所で……?」
「ガーラからあなたを奪い返さないと」
「だ、だから俺は別にガーラとはそんな……!」
 これは暫く根に持たれるなと、ルインフィートはハルマースの下でため息を漏らした。
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