堕落
浴室の濡れた冷たい床に背中を押し付けられて、ルインフィートは肌を粟立たせていた。彼を組み敷いているハルマースもそのことに気がついて、彼の身体を抱き起こした。
「少し湯を浴びましょう」
「う……ん……」
ルインフィートはぼんやりとした表情で、ハルマースに促されるままに立ち上がった。背中から身体を包み込まれるように抱きすくめられて、身体の中から熱がせり上げてくるのを感じていた。
頭上から暖かいお湯が降り注ぎ、二人の身体を滑って行った。ハルマースは傷跡の走るルインフィートの腹から胸を撫で上げて、乳首を指先で弄んだ。顔を彼の首筋へと近づけ、うなじの辺りを舐めると、ルインフィートはびくりと肩を震わせた。
「はぁ……あ」
心地よく湯が流れる感触と、身体を弄られる刺激に挟まれてルインフィートはうっとりとした甘い息を吐いた。
そのままハルマースに耳を甘噛みされて、彼はぞくりと肌を粟立たせた。
「こんな……こと」
「こんなこと?」
こんなに優しく抱かれる事など、ガーラにはされたことが無い。そう言いかけて口をつぐんだルインフィートの耳に、ハルマースの熱い吐息を含んだ声が吹きかけられた。その声に身体がまた反応して、ルインフィートは身を捩らせた。
「くすぐったい……もどかしいよ」
「もどかしい?」
ハルマースはルインフィートの固く尖って勃ち上がった乳首を更につまみあげて、指の腹を乳頭に強く擦りつけた。
「――ッ」
ルインフィートの身体が熱く火照り出し、声を喉につまらせた。腰の辺りがじんじんと痺れるような熱に苛まれる。ハルマースの腰が押し付けられている尾てい骨の辺りに固いものが当たって、いやらしい期待感を抱いてしまう自分を恥じて頬を染めた。
「ハルマー……ス……」
ルインフィートはお湯を止めて、胸を弄る彼の腕を掴んでほどいた。身体を彼の正面に向きなおして、わざと身体をこすり付けるように抱きつき、顔を寄せて口付ける。
ハルマースはルインフィートの要求に応える様に彼の口内を貪って、腰に手を伸ばして尻を優しく撫でた。
お互いのものが腹で擦れあい、固く熱く膨張していた。ハルマースがルインフィートのそれに手を伸ばして優しく扱き始めると、ルインフィートは身体を強張らせて彼の背中に爪を立てた。
欲しかった刺激を与えられて、ルインフィートの身体が淫らな悦びに震えた。顔をハルマースの肩に預けて、腰が崩れ落ちそうになるのを耐えた。
「あ……あ……っ」
「気持ち……いいんですか?」
甘く囁かれたその言葉に、かっと血の気が頭に上る。
「そんなこと聞くなバカッ……!」
気持ちいいに決まっているじゃないか、と、ルインフィートは言葉には出さずに頭のなかで付け足した。
ハルマースは含み笑いをして、片手でルインフィートの前を扱きながら、もう片方の手を後ろへと伸ばした。割れ目を指でなぞって孔へと忍ばせると、ルインフィートの腰が彼の指を誘うようにゆらりとくねった。
既にほぐされてやわらかくなっているそこは、ハルマースの指をねだるようにひくひくと蠢いた。内壁のあるところをこすり付けるとルインフィートの身体が大きく揺らぐのを覚えたハルマースは、そこを集中して責め立てた。
「ここが……イイみたいですね」
「うあッ……はあっ……!」
ルインフィートはたまらず甘い声を上げた。ハルマースの背にしがみついて、はぁはぁと荒い息を吐く。
男の味を既に知っている身体。そう思い知らされたような気がして、ハルマースの心の中に暗い炎が揺らめいていた。
再びルインフィートに背を向かせて、壁に両手をつかせて尻を突き出すような格好にさせる。やや屈むような格好にされても、ルインフィートのそれは腹に着きそうなほど固く勃起していた。
ハルマースは再びそこを手に包んで扱き、達しそうなそぶりを見せると先端の括れをぎゅっと握り締めて制した。ルインフィートは意地の悪い彼の手つきに苛まれ、苦しそうに身を震わせた。
「うう……いかせ……て……」
「ガーラのヤツがあなたに夢中になるわけだ。
……いやらしい、身体だ……」
言葉を吐いてから、ハルマースは自分の声にうんざりした。彼を傷つけるようなことなど、言いたくないはずなのについ口を出てしまう。
「ハルマース、いい加減に……」
ルインフィートはむすっとした表情で身体を起こし、しかし直ぐにその場にしゃがみ込んだ。そして、悪戯な微笑みを浮かべてハルマースの顔を見上げた。
「お前だってこんなに……大きくしてるじゃないか」
ルインフィートはなんの躊躇いもなく、ハルマースのそそり立つそれを手にして、先端を口に含んだ。
「な……!」
ハルマースは驚いて、ルインフィートの頭を掴んだ。しかしルインフィートは彼から離れずに、舌先で彼の先端をしばらく弄んだあと、大きく口を開いて彼のものを一杯に頬張った。
ハルマースの大きなそれはルインフィートの口内には収まりきらなかったが、えづきそうになりながらも必死で彼のものにしゃぶりついた。
「んん……んぐっ……」
自ら無理に顔を押し付けて、喉の奥まで彼のものを呑みこもうとする。あまりの苦しさにルインフィートは涙目になりつつも、彼から離れようとはしなかった。
「や、やめろ、もうよせ……ッ」
しかし言葉とは裏腹に、ルインフィートの頭を掴んだその手は彼を拒むことができなかった。懸命の奉仕に、身体の奥を燃え上がるような欲望が駆け巡る。
「出……る……ッ」
ハルマースはルインフィートの頭をどかそうとしたが、ルインフィートはそのままハルマースのものを頬張って退こうとしなかった。ハルマースはそのまま彼の口内に自らの精を解き放ってしまった。
ルインフィートはごくりと喉を鳴らし、彼の精を呑み込んだ。収まりきらなかった白濁が口の端からあふれ出し、糸を引きながら床に垂れ落ちた。
「なんという事を……」
乱れた息を整えながら、ハルマースはルインフィートの頭を撫でた。ルインフィートはまだハルマースの腰から離れずに、身体に飛び散った白濁を舌で丁寧に舐め取っていた。ハルマースのそれは直ぐにまた固くなり、上を向いて主張し始めた。
「ハルマース、大好きだよ……。俺、お前のことこんなに大好きなのに、なんで裏切るようなことをしてたんだろうなあ……」
自嘲しながら、ルインフィートはハルマースの顔を見上げた。その瞳には涙が滲んで今にも零れ落ちそうだった。彼はそのまま床に横たわって、脚を開いて秘部を大きくハルマースの前に曝け出した。
「お前と一つになりたい。一緒に……堕ちよう」
うっすらと微笑みを浮かべ、腕を伸ばして、ハルマースを誘う。ハルマースはルインフィートの瞳に心を射抜かれて、誘われるまま黙って彼の上に跨った。
ルインフィートはうっとりと目を細めて、ハルマースの背中に腕を回し、彼の長い髪にいとおしそうに指を絡めた。
ハルマースはルインフィートの脚を両手で掴んで、その間の尻の孔に己の猛る高ぶりをあてがった。
「行きますよ……」
「うん……」
ルインフィートはこくりと頷いて、ぎゅっと唇を噛んだ。ハルマースの大きなものが、身体の中に侵入する。圧倒的な異物感と質量に、身体が張り裂けそうな錯覚を覚えて思わずうめき声を上げた。
「うう……くっ……きつ……」
苦悶の表情を浮かべるルインフィートを見て、ハルマースは躊躇って腰を進めるのを止めた。
「無理そう、ですか?」
ハルマースの問いかけに、ルインフィートは力いっぱい首を横に振った。中途半端なところで止められて、余計につらそうに顔を歪めた。
「酷くして構わない……突けよ……! 俺をお前でいっぱいにしてくれ……!」
「ルインフィート様……」
ハルマースはごくりと息を飲み、意を決して、思い切り腰を突き上げた。ずっぽりと彼の中に己のものが納まって、内部の熱さが伝わってくる。
「ひ、あ……!」
ルインフィートは大きく身を仰け反らせた。あまりにも苦しそうな彼の様子を見て、ハルマースは彼の身体の負担が心配になった。
「無理です、やめましょう」
「いやだ……離れたくない……。苦しいけど、痛いけど、俺、今物凄く幸せだよ……」
ルインフィートはハルマースにしがみついて、ぼろぼろと涙をこぼした。ハルマースは困惑しつつも、ルインフィートの自分への想いの強さを感じて、彼もまた涙が出そうになっていた。
「お許し……ください……」
ハルマースはそう告げると、腰をゆっくりと動かし始めた。強烈な圧迫感と摩擦感に、目も眩むような甘美な快楽が彼の中を駆け巡った。
動きは徐々に早くなって、腰のぶつかる音が浴室内に響き渡った。腰を突かれながら前も扱かれて、苦悶に歪んでいたルインフィートの表情は、いつの間にかだらしなく口を開けて涎をたらした恍惚なものへと変わっていた。
「あ……ああっ――はぁ……んん……!
好きだ、あ……あいしてる、ハルマース……」
「ルイン……もう、誰にも触れさせない……。我が、君……」
二人は折り重なって一緒に達した。ルインフィートの身体を気遣ったハルマースは、咄嗟に彼から己のものを引き抜いて、腹の上にたっぷりと放出した。ルインフィートの出した精と混ざって、彼の下腹部から胸にかけてがべとべとの白濁まみれになってしまった。
白濁にまみれた身体をそのまま投げ出して、ルインフィートは荒い息をしたまま呆然と虚空を見つめていた。
「大丈夫、ですか?」
息を整えながら、ハルマースが心配そうな顔を彼に向けた。肩に手をかけて、ぼんやりとしているルインフィートの身体を抱え起こした。
「お身体、お流ししましょう」
「う……ん……」
疲れ果てたような声で返事をして、ぐったりとしながらルインフィートはハルマースに支えられながらよろよろと立ち上がった。
⇒NEXT