熱
部屋は煌々と魔法の明かりに照らされていた。それを気にしたルインフィートは、自分の上に跨るハルマースに願った。
「寝るんだったら、明かり消せよ」
しかしハルマースは微笑むだけで、明かりを消そうとはしなかった。
「まだ寝かせませんよ」
首筋に口づけをしながら、ハルマースはルインフィートの腰に手をかけて、前を開けた。そのまま下穿きをずり降ろして、ルインフィートの下半身を露にした。
明るい部屋の中、鍛えられて引き締まった下腹部と、更にその下の髪の色と同じ茂みが晒された。雄の色までもがはっきりと認識できてしまう。ルインフィートは消え入るような声で彼に抗議する。
「最近お前エロいよ……俺の裸なんて、見慣れてるだろ……?」
「ご不満ですか?」
ハルマースの返事に、ルインフィートはこくんと頷いた。しかしハルマースはそれでも明かりを消さなかった。太腿の内側を撫で上げ、足を大きく開かせて膝を上げさせ、秘部までもが彼の前で露になる。
「全部丸見えですよ。嫌な割には素直ですね。本当は見せたいんじゃないですか?」
尻の割れ目を指でなぞると、肛門がひくひくと反応するのが見える。ルインフィートは羞恥に頬を染めて、瞳に涙を浮かべていた。
「お前が望むなら、俺は我慢する……よ」
ルインフィートの声は僅かに震えていた。ハルマースは急に強い罪悪感に襲われて、急いで明かりを消した。
「すいません。悪戯が過ぎました」
謝罪をし、すぐに彼は顔を落としてルインフィートに口付けた。お互いに目を閉じて、唇と舌の感触をゆっくり楽しんだ。
ハルマースの手がルインフィートの胸の上を滑って、色付いた乳首を指先で弄んだ。小さく、固く勃ちあがったそこを、指で摘まんで爪の先で掻くと、ルインフィートの肩がしなって震えた。
口付けをやめて目を開けて、ルインフィートの顔を見ると、既に甘い痺れに捕らわれてとろんとした表情を浮かべていた。ハルマースは明かりを消した事を少し後悔した。
胸を弄られただけで、ルインフィートの下半身の雄は熱く勃ち上がりかけていた。ハルマースはそこに手を伸ばして、手のひらで包み込んだ。
ルインフィートは短く声をあげて、びくりと身体を震わせた。そして、ハルマースの背中に腕を回して衣服を掴んだ。
ハルマースの手は、ルインフィートの望むとおりに動いた。じっくりと丁寧に優しく、時にはきつく激しくそこが扱かれる。ルインフィートの呼吸が乱れ始めて、腰が揺れ動いた。
「や……やぁ……あ……」
先端から透明な液が滲み、湿り気を帯びたそこは、ハルマースの手になじんで更なる刺激を求めた。しかしハルマースはルインフィートが達しそうになる寸前で、手をそこから離した。
「あ……うわっ」
ぼんやりとしてしまった瞬間に、ルインフィートのそれはハルマースの口内に含まれた。生暖かくぬるりとした舌の感触に、ルインフィートはまた身体が震わせた。口腔で雄を刺激されながら、両手で再び乳首を弄られる。
とろけてしまいそうな甘い快楽に身を任せ、熱くこみ上げる衝動を躊躇いなくハルマースの口内に解き放った。
「あ……ご、ごめん……」
肩で息をしながら、ルインフィートはハルマースの頭に手を伸ばして、髪に指を通した。ハルマースはルインフィートの精をごくりと飲み干して、顔を上げた。
「うつ伏せになって、腰を上げてください」
服を脱ぎ捨てながら、笑顔でそう言うハルマースに軽く戦慄を覚えつつも、ルインフィートは素直に彼に従った。うつ伏せになって、膝をついて腰を宙に浮かせると、丁度ハルマースに尻を見せ付けるような格好になってしまった。
恥ずかしいと思う気持ちと、これからされるであろう行動に対するいやらしい期待に、心臓がはちきれそうになった。
「この街には、便利なものがあるんですね」
ハルマースの声と共に、ルインフィートの肛門に、ぬるりとしたものがぬりつけられた。はじめての感触にルインフィートは驚いて、肩越しにハルマースのほうを見た。
「な、なに……?」
「潤滑油、ですよ」
ハルマースはそれを、指を使ってルインフィートの内部にも塗りこめた。指はするりと中に入って、彼の内部を容易にほぐすことができた。
「そ、そんなもの、いつどこで……手に……っ」
ハルマースは穏やかに微笑むだけで、彼の問いには答えなかった。指の数と油の量を増やして、彼の中をより一層掻きまわす。
「よく慣らさないと、あなたを傷つけてしまう」
長い指が奥まで入り込み、執拗に内部で蠢く。彼の指はいつしかわざとらしく前立腺の辺りを擦り始め、気が変になりそうな強い刺激がルインフィートを苛んだ。
「や……やだ……もうよせ……っ! 指だけで……い、いっちゃ……
――あっ、アアッ……!!」
ルインフィートの腰ががくりと大きく揺れて、腹がのたうつ。張り詰めたそこからだらりと白濁が垂れ落ちて、寝台の敷布を汚した。彼はそのままだらしなく口を開けて放心してしまった。
しかし間を置かずに今度は指とは比べ物にならない質量のものが彼の中に挿入されて、息を喉に詰まらせて身体全体が瞬時にして強張ってしまった。
「う、うう……」
たまらずに呻いてしまうルインフィートのことを気遣いながら、ハルマースはゆっくりと腰を彼に押し付けた。潤滑油の助けを借りて、大きな彼の性器が抵抗なく埋まってゆく。
「ルインフィート様……お辛いですか?」
「気にするな……だい、じょう……ぶ」
そう彼は言うが、身体は強張り、辛そうに息な息を吐いていた。とても平気な様子には見えなかったが、ハルマースはもう自分の欲望を制御することができなかった。
「いつも……つらい思いをさせてすみません」
「つらくないよ……。こうやって、お前で一杯にされてる時が……一番……幸せなんだ」
瞳を涙で潤ませながら、ルインフィートは言う。ハルマースは彼の言葉に軽い眩暈を起こして、自我を捨てて彼の身体を責め立て始めた。
腰を引き、そしてまた突き上げるように打ち付ける。繰り返すうちに萎えかけていたルインフィートの雄が再び首をもたげて、快楽の蜜を滴らせ始めた。
「ひ、あ……アァ……ッ! は……ハルマース……ッ」
ルインフィートはうわごとのように、何度も彼の名前を呼んだ。身体の中を駆け巡る灼熱の前に、彼は何度も意識を手放しかけてしまった。
意識が飛びかけているルインフィートに容赦なくその牙を突きたて続けながら、ハルマースは彼に囁きかけた。
「……俺はいつかあなたを、壊してしまいそうだ」
ハルマースは彼の背中に覆いかぶさるように抱きついて、精をたっぷりと彼の中に注ぎ込んだ。
「ふ……ぁ……」
彼と同時に、ルインフィートも達して、身体を強張らせながら精を解き放った。ハルマースの雄が引き抜かれると、中で出された精液が滴り落ちて太腿を伝った。
「すいません……思わず、中に……」
我に帰って謝罪するハルマースに、ルインフィートは微笑みを返した。仰向けに身体の向きを変えて、ハルマースに手を伸ばして彼の腕を掴む。
ハルマースは彼に誘われるまま横になり、その腕の中に彼を収めた。ルインフィートはそのまま穏やかな表情で、彼の腕の中で眠ってしまった。
ハルマースは腕の中で眠るルインフィートの髪を撫でて、額にそっと口付けた。
「こうして寝床を共にするのも、もう……。
……いや、そういえばウチにあやしげな地下通路があったな……」
ルインフィートの穏やかな寝顔を見つめながら、ハルマースはもくもくと黒い構想を練り始めた。
翌朝、ルインフィートが目覚めると、すっかりと回りは清められていて、身体にもきちんと清潔な衣服を着せられていた。
昨晩の行為の証拠は、腰に響く重い陣痛のみ。ハルマースは既に起きて朝食の準備をしているようで、寝室には姿がなかった。
よろよろと痛む重い腰を上げて、ルインフィートは寝室を出て調理場で作業をするハルマースの背中を目指して歩いた。
「お目覚めですか」
ルインフィートが起きたことに気がついて、ハルマースは振り返って笑顔を見せた。しかし、ルインフィートの身体の辛そうな状態を見て、にわかに表情を曇らせる。彼は手元の火を消して、ルインフィートに歩み寄った。
「ああ……俺のせいですね。ゆっくりお休みになってください。食事ができたら、お持ちしますから」
「ありがとう、でも大丈夫」
ハルマースの気遣いに、自然と笑顔がほころぶ。痛む腰は昨晩の行為が、夢や妄想ではなかった事の証だと思うと、悪い気分にはならなかった。
ルインフィートの笑顔を見て安心したのか、ハルマースはまた調理場へと戻った。
「大好きだよ、ハルマース」
「な、なんですか急に」
突然の言葉に、ハルマースは手に持ったおたまを落としてしまった。彼のそんな様子が微笑ましいのか、ルインフィートは声を出して笑った。
ハルマースは照れながら料理を続けて、やがて鍋の中の、野菜を煮込んだスープからいい匂いが部屋に漂い始めた。先ほどまで具合が悪くて全く物が食べられそうな気分じゃなかったルインフィートは、その臭いをかいだだけで少し身体が楽になったような気がした。
この街に辿り着き、この部屋に住むようになってから、ハルマースは毎日料理や家事全般をこなしていた。ルインフィートは今更ながらにその事に感謝した。
本来ならばハルマースはこのような雑務を行うような身分の人間ではない。彼はサントアークの将軍の、大事な一人息子だ。
何故こんなにいろんなことを器用にこなす事ができるのだろうと、本当に今更ながらにルインフィートは疑問に思った。
「今更だけど、お前ってホントに器用だよな……」
料理を運んできたハルマースに言う。ハルマースは少し憂いのある微笑みを見せた。
「子供の頃は、手先の作業しかできませんでしたから。料理は父と暮らすようになってから、出来るようになりました」
王城の側の邸宅に来る前のハルマースを、ルインフィートは殆ど知らなかった。ハルマースも、その時期のことをあまり話そうとはしなかった。
「今の自分があるのは、あなたのおかげです。できればあなたを独り占めしたかった。ガーラのヤツとリーディガル様が小憎たらしくてしょうがない」
ハルマースは苦笑した。ルインフィートも、どう言葉を返していいのかわからず苦笑してしまった。
「お前がそんな熱いヤツだったなんて知らなかった」
いつも冷静沈着な彼が、自分のこととなるとこんなに熱くなってしまう。ルインフィートは最近までそんな彼の気持ちに気がつかなかった。
「憑き物が取れて、俺にもいろいろと欲というものが沸いてきたみたいです」
できあがった料理を並べながら、ハルマースは穏やかに笑った。ルインフィートは彼の心境の変化を、末恐ろしく感じながらも歓迎した。
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