日差し
昨日の猛吹雪がまるでなかったもののように見事に空は雲一つ無い快晴だった。
降り積もった雪が日光を反射してきらきらと光を散りばめている。
少年たちは洞穴の近くの岩場に温泉が涌き出ているのを発見し、仲良く身体を暖めていた。
ようやく彼らはここでお互いの名前を確認する。
「俺はコテツっていうんだ! お前は?」
「……つかさ……」
元気一杯の黒髪の少年、コテツとは対象的につかさはぼそりと呟くように名前を告げた。
この温泉は以前からつかさ達はよく利用している場所だ。
村からはそう遠くは離れていない。つかさは湯につかりながら村の方向をじっと眺めていた。
本当になくなってしまったんだろうか。確かめにもう一度戻って行きたい衝動にかられる。
しかし黒髪の少年は事実を述べてしまう。
「お前……つかさのいた所は瓦礫の山だったよ」
「…………」
つかさの心の中に残ってしまった傷跡は深くコテツにうまい言葉を返してやることができない。
彼は黙ってうつむくしかなかった。
「これで……四件目だ、何かに襲われたとこ……」
気を沈めているつかさに構わずコテツは語り出す。
「この森に入ってから立ち寄った集落は全部ボロボロだったよ。
一体どうなってんだろうな」
まわりの集落もやられている……?つかさは少なからず衝撃を受けた。
本当に自分が帰ることができる場所がなくなってしまった。
あの、まがまがしい雰囲気を放つ女の仕業なのだろうか。だとしたら目的は何なのだろう。
つかさの頭の中でさまざまな憶測が飛び交う。
あの女は父親をさらっていった。
いったい何のために、父がさらわれなければならないのだろうか。
そして何故自分に危害を加えなかったのだろうか……。
「どっちにしろこの国は危ない。
国王が殺されて一年経つらしいが、この森の外のまちでも、
すんごく治安がわるくて居られたもんじゃ無い。
はやくどこかへいっちまったほうがいいな」
コテツは自分に言い聞かせるように告げる。
「お前もはやくここを離れた方がいぜ」
コテツの黒い瞳がつかさの顔をのぞき込む。
ここを……出る……?
それはつかさにとって未知なる行動だった。
「でも……どうしたらいいか、わからない……」
コテツは立ち上がりうつむくつかさの肩に手をかけた。
突如として目の前に現れた少年の裸体につかさははっとなる。
たちのぼる湯気に見え隠れする雪のように白い滑らかな素肌。
あれは見間違いじゃ無い。湯に浸かっているはずなのに少しも上気していない頬。
違和感を感じるほどに彼の身体は美しいものだった。
にこにこ微笑むコテツの口元から覗く犬歯がひどく愛らしく見えてつかさはまたしてもよくわからない変な興奮に襲われていた。
「俺についてこいよ、つかさ!
ここから東に森を抜けたところに国境があるんだ。
その先の国にでっかい地下迷宮があって、冒険者がたくさん集まっているっていうハナシだよ」
その言葉を断る理由はどこにもなかった。
一年間魔族の集落で療養して兄弟探しの旅に出た記憶喪失の青年もそこにむかったときいている。
そして……もっとこの少年のことを知りたい。
つかさはそういう衝動にかられていた。
「うん……俺も行くよ」
「よし決まり!!」
つかさが返事をするや否やコテツは彼の手を握り締める。
「これからよろしくナ!!」
無邪気な笑みを魅せるコテツ。再びしゃがみこみ湯に浸かる。
彼に興味を持ち始めたつかさは思い切って自分から彼に話しかけてみることにした。
「コテツは……どこから来た?」
話しかけられて、コテツはうれしそうに語り出す。
「ここからずーっと西の方さ。
今はサントアークに統合されたみたいだけど、町からは少し離れた森の中で、母ちゃんとお手伝いさんとで静かに暮らしてたんだ」
お手伝い……みかけによらずお坊ちゃんなのか? つかさは彼の意外な一面を見たような気がした。
彼は修行を兼ねて自分が幼いころにいなくなった父親を探して旅をしているのだという。
もう家を出て三年は経つと言う。
そんな幼いうちから一人危険な旅に出ることが果たして正しいことなのかつかさにはわからない。
ただ自分より幼く見えるこの少年は確実に自分よりも心身ともに強いということはあきらかだった。
これからは彼を見習わなくてはならない。たとえ父が嫌っていた『人間』だとしても。
「でもよ〜、今思うと不思議だよな……。
なんであんな真っ暗いところで暮らしてたんだろう……」
コテツはう〜んと考え込んだ。
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