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鳥獣戯画の宴
 ルイムの七賢者のうちの一人、占星術師キルヒ・ザイツェンガーの従者、エリックはご主人様が好きそうな少年を奉納することができ、一息ついていた。
 遊び慣れたご主人様はもう普通の美少年では満足しないのである。遊廓などで客なれした者などもってのほかである。
 できるだけ苦労してそうで、なおかつ主張しない程度に可愛らしい風貌で、それでいて未だ経験のなさそうな清童を連れて来いというのである。
 案外どこにでもいそうな冒険者の少年を拾ってくれば良いのだから簡単そうに聞こえるが、これが実際なかな見つからないものである。
 なにしろ業者から回されてくるのは既にご主人様にとって興味のない麗しい美少年ばかりである。
 普通のちょっとかわいい少年というのは自分の足であちこち探さなければならないのである。
 エリックはまた次、どこから少年を仕入れてこようかと思案にくれていた。
 そしてふとなにげに窓の外をみた時、エリックは凍り付いた。
 空に浮かぶ月を横切るように、うさぎが飛んでいったのである。
 その胸に『殺』の文字を刻んで。
「と、とうとうキルヒ様が……!!」
 賢者を狙う殺人ウサギの噂は当然エリックの耳にも届いており、何時来るか何時来るかと恐れていた。
 とうとう今、ウサギが来てしまったのである。
 エリックが呆然と立ちすくんだ。
 しかしすぐに彼の部屋に何物かが乱暴に入り込んできた。
 乱入者はエリックの部下のものだった。
「スコット!? これは……!?」
 エリックは部下の凄惨な状態を見て驚愕した。足の骨はあらぬ方向に折れ曲がり、右腕はもぎとられたのか無くなってしまっている。
 スコットと呼ばれたエリックの部下は息も絶え絶えに上司に言葉を告げた。
「あ……悪魔が……」
 それだけ告げると彼は息絶えてしまった。
 ウサギ以外に何かが出たというのか。
 エリックは部屋の外に出て、『悪魔』の姿を確認しようとした。
 スコットの血の跡を追い廊下を抜け広間につくとそこは地獄の光景だった。
 奇怪に折れ曲がり、散り散りになった既に『肉片』としか呼べないものが広間一面に広がっていた。
 血の海の中央に『悪魔』と呼ばれたものは立っていた。
 人の姿に、ねじ曲がった角、そして群青のこうもりの羽が四枚。
 その悪魔の顔は、紛れもなくさきほど牢に連れ込んだ少年のものだった。
「ま……魔族だったのか!!」
 エリックは思わず叫び声をあげた。
 声に気づき悪魔はエリックのもとに歩み寄っていった。
 エリックは恐怖の余り硬直して動けなくなっていた。
「コテツを……何処にやった!!」
 悪魔と呼ばれたもの……つかさは、さきほど自分達を魔術で眠らせた人物の胸元を掴む。
 エリックは恐怖に上擦った声で震えながら答えた。
「城の……最上階の……キルヒ様のもとへ……」
 居場所を聞くとつかさは用済みとばかりにエリックを放り投げるようにして解放した。
 エリックは壁に強く体を打ちつけられ、背中を激痛が襲ったが命には別状がなく、そのまましばらく倒れたまま放心していた。


 気味が悪いと感じていた。
 そう思っていながらも何故かコテツは自分の身に纏っているものを剥そうとする手を退けることができない。何か精神支配の魔法がかけられているのであろう。
「汚れを知らぬ清童ちゃんね、たまらないわ。
 今日はどうしちゃおうかしら」
 目の前の男は男のくせに女の言葉を使う。
 極めて不快で、顔を背けたくなる思いだがそれもかなわない。
 ぼんやりと男の動向を見据えなすがままになるしかないのだ。
「さて、いただきますわ」
 男の手で絹の夜着をはぎ取られるとコテツの白い肌が露にされた。
 生まれたままの姿を見知らぬオカマ晒されコテツは不快感に吐き気を催した。
 男……キルヒは躊躇することなくその手をコテツの肌に触れた。指先で鎖骨をなぞるように触られる。
「まー、なかなかきれいなお肌してるじゃないの」
 キルヒの心は踊った。その手を徐々に下の方へと移動させてゆく。
 胸の突起に指が触れられると、コテツはくすぐったさにぴくりと身をよじらせた。
「うふふふ……可愛いわ」
 キルヒはうっとりと悦に入るとその指でじわじわとコテツの小さな乳首をなぶりはじめた。
 今まで経験のない感覚が容赦なくコテツを襲う。
「やっ……あっ……」
 思わず出てしまった変な声にコテツは困惑した。
 やめてほしいと身をよじるもキルヒの手は更に下の方へと延ばされてゆく。
 そのままコテツの高ぶりを覚え始めているそれにまさに触れようとした瞬間である。
 部屋の窓がけたたましく割られ外から侵入者が現れたのである。


 侵入者はウサギの魔ぐるみを着ていた。胸元に『殺』の文字を縫いつけて。
 殺人ウサギのZが占星術師キルヒ・ザイツェンガー賢者を討ちにやって来たのである。
 お楽しみのところを邪魔され、キルヒは不快感を露にした。
「いやぁーねぇ! ザハンちゃん!!
 今わたしお楽しみ中なのよ!!」
 正体はバレバレのようである。しかしウサギのZは怯む事なく光り輝く波動の剣を構え、キルヒに突進した。
 突然斬りつけられ、キルヒは避けきることができずに脇腹を負傷した。
「いやーん!! ザハンちゃん何するの!!」
 魔術を唱える間もなくキルヒは容赦なく襲ってくるZの剣をその体に浴びた。キルヒはよろめき血を流しながら、しかしそれでもさしたる損害を受けた様子もなく不敵ににやけながらZを睨みつけた。
「もう! 乱暴ねぇ!! お仕置きが必要だわ!」
 キルヒは顔を流れている血を手でぬぐった。
 キルヒとZは睨みあった。緊迫した空気が流れる。
 しかし、そのふたりの間を割るようにコテツがふらふらとキルヒに近づいていった。
「あら?」
 キルヒは一瞬呆気にとられた。
「あらあらあら」
 コテツはキルヒの胸元に治まると彼の首筋を流れ伝う血液を舌でなめとり始めたのである。
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