罰に次ぐ罰
宴は二次会を向かえようとしていた。二次会にはザハンとローラとジュネとコータと、そして先ほど玄関に雑魚寝させられていた三人が参加することになった。
それはもはやお月見でもなんでもなかった。
一同は地下のザハンの研究室に集められ、怪しげな魔法陣の張られている部屋へと案内された。その部屋には大きな卓が置かれていて、なにやら地図のようなものが上に置かれていた。
ザハンは自分とローラを除く若者五人を卓に着かせ、笑顔を浮かべながら、一同に説明を始めた。
「これは【リアルすごろく】といいます。
止まった升目に書かれていることが、現実に身の上に起こるという凄いものですよ。
今日はこれから皆さんにこれで遊んでもらいます」
「――は?」
一同ははっとなって、卓の上に置かれた【リアルすごろく】をよく見てみた。升目にかかれいている指示は、こんなものだった。
怪物と出会ってしまったため倒すまでお休み
捕まってしまった為保釈金を支払えるまでお休み
落雷に遭った為回復するまでお休み
落とし穴に落ちたため抜け出せるまでお休み
死んでしまった為生き返るまでお休み
異空間に飛ばされてしまったため戻ってこられるまでお休み
「め……メチャクチャだこれ!!」
本能で身の危険を感じ、ルインフィートは席を離れようとして立ち上がった。しかし、その瞬間に身体に電撃が走り、逃げることは許されなかった。
「ぎゃああああ!」
「ゲームはもう始まっているのですよ。帰りたかったら、すごろくであがってください」
ザハンはニコニコしながら、ルインフィートを再び席に戻した。
「な、なんでこんなものやんなくちゃなんねえんだ!」
コータがザハンに吠えかかった。ザハンは相変わらず涼しい微笑みを浮かべて、質問に答える。
「製品化前のテストプレイをしてもらおうと思いましてね」
「誰が買うんだこんなもの」
やや青ざめた表情で、ハルマースが呟いた。
「万が一の事があったら、私が回復を承りますので皆さん安心して楽しんで」
ローラが一同から少し離れた椅子に座り、優雅に扇子を扇ぎながら微笑んでいた。
「最後まで残った人には、勿論罰ゲームが待っていますので真剣に遊んでくださいね」
いよいよザハンが六面のサイコロをガーラに手渡して、一同に告げる。
「これ自体が罰ゲームみたいなものじゃないか……」
恐々としながら、ガーラはサイコロを振った。出てきた目は三で、ガーラはコマを三つ勧めた。そこには何も書かれておらず、ガーラはほっと胸を撫で下ろした。
ガーラの次に、ルインフィートがサイコロを振った。出てきた目は六。最高の目が出たことにルインフィートは一瞬喜んだが、とまった升目を見て凍りついた。
ルインフィートが止まった升目には、こうかかれていたのだ。
他のプレイヤーが上がるまでお休み
「アホかぁぁぁあああ!!」
ルインフィートは憤り、立ち上がって卓をひっくり返そうとばかりに掴んで持ち上げようとした。しかしまたしても身体に電撃が走り、その場に崩れてしまった。
「かわいそうに、罰ゲーム決定ですね」
ニコニコしながらザハンが言う。ルインフィートは卓にしがみつき、恨めしそうな目でザハンを睨みつけた。
「アホか! あんたアホじゃないのか! こんなゲームありえない!!」
しかし、ルインフィートの叫びも空しくすごろくは続けさせられた。他の連中は罰ゲームが免れたとはいえ、コマに書かれている事柄そのものが厳しいものばかりなので、おどおどしながらサイコロを振りその結果に一喜一憂した。
参加者が次々と雷に打たれたり落とし穴に落ちたりするのを見て、この場から動けないルインフィートはひょっとしたら自分は運が良かったのではないかと思い始めた。
ゴールが近くなる頃には既に皆満身創痍で、サイコロを振るのもやっとといった様子になってしまっていた。
「あ……上がった……」
最初に上がったのはハルマースだった。彼は何度か雷に打たれ、衣服もその長い髪もボロボロになってしまっていた。
「おめでとう、さすがね」
ローラが優雅な微笑みを浮かべ、ハルマースを励ました。回復の術を施し、もとの体調に戻したが、衣服は元には戻らなかった。
ハルマースを皮切りに次々に皆あがっていった。最後に残ったのは、抗えようもなくルインフィートだった。
「お、おわったのか?」
ルインフィートの呟きを、ザハンはニコニコしながら否定する。
「あなたもきちんと終らせてください」
サイコロを手渡され、結局ルインフィートも罰のような苦難の道のりを進んで終らせる事となった。
ルインフィートも何度も雷に打たれ、縄で拘束されたり怪物に襲われたりしながらもなんとかゴールした。
「メチャクチャだ……お前の父さん頭がおかしいぞ」
ルインフィートはよれよれになりながらガーラを睨みつけた。ガーラも何度か死にかけたので、その言葉を否定することはなかった。
ザハンは相変わらず微笑みを浮かべながら、このとんでもないすごろくの参加者達に労いの言葉をかけた。
「皆様、お疲れ様でした。楽しんでいただけたようでなによりです」
その声に反論するものはいなかった。しかし楽しかったというわけではない。全員反論する気力すら残っていなかったのだ。
「さて、お待ちかねの罰ゲームです」
ザハンの物凄く楽しそうな声を聞いて、ルインフィートはびくりと肩を震わせた。
罰のようなすごろくの罰ゲームなのだから、さぞかしきつい罰に違いないと思ったのだ。
ザハンは四角い箱を持ち出し、ルインフィートの前に差し出した。
「罰ゲームはくじ引きで決めます。全てを天に任せましょう」
にこにこと微笑むその姿に心の奥底から嫌悪を抱きながら、ルインフィートは仕方なく箱の中からくじを引いた。
引き出した紙をザハンが取り上げ、内容を読み上げた。
「最下位だったものは、一位だったものに一晩服従する」
一瞬の沈黙の後、ガーラから野次が飛ばされた。
「……そんなもの罰にならないじゃないか!」
一位だったのは、ハルマースだ。彼はルインフィートに仕えている人物なので、服従させるといってもきっと罰になるようなことは何もしないに違いない。
「ああ、よ、よかった……」
ルインフィートはほっと胸を撫で下ろして、ハルマースにもたれかかった。
ハルマースもほっとした表情で、ルインフィートの身体を抱きしめた。
「俺が一位で良かった……」
二人の様子を、一同はつまらなさそうに眺めた。
「はじめから罰がそう決まってたのなら、俺も本気で頑張ったのに」
そう言い出したのはジュネだった。ジュネはちらりとハルマースのほうを見て、その視線をルインフィートにうつした。
「苛めたかったな、君を」
「冗談よせよ。ハハハハ」
すっかり上機嫌になったルインフィートはジュネの言葉を軽く聞き流したが、ジュネの恐ろしさを知るガーラとコータは身を竦ませていた。
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