王子様のおつかい
西の大国サントアークの王子ルインフィートは、城を抜け出し身分を隠して冒険者生活を送っていた。
彼は紆余曲折を経て、古代の遺跡が数多く残る東の自由都市にたどり着いた。そこでお供の騎士ハルマースと、道中に出会った仲間達と共に地下迷宮の探索を行っていた。
邪悪な怪物たちの多く住まう地下迷宮の探索は、時間と労力を要した。無理をして深入りをして帰って来れなくなった冒険者は多い。
ルインフィートとハルマースは町外れに部屋を借りて、そこを生活の拠点にして自らを鍛え、少しずつ確実に迷宮を攻略していった。
そんなある日のことである。
ルインフィートはうっかり朝寝坊をしたことに気がつき慌てて起き上がった。
いつもなら連れのハルマースが朝食を用意しつつ、ルインフィートのことを起こすのだが、今日は少し様子が違っていた。
ルインフィートの向かい側にある寝台の上に、ハルマースは未だ横たわっていた。
「ハルマース、どうした?」
心配になってルインフィートはハルマースの様子を伺った。ハルマースの顔は赤く、その息が酷く荒いことにルインフィートは動揺した。
額に手を触れてみて、ルインフィートはその熱さに驚き思わずすぐさま手を引いた。
「すごい熱だ……!」
ハルマースの目は虚ろで、意識は朦朧としているようだった。ルインフィートは大慌てて薬を探したが、備えてあった薬箱の中身は既に使用済みで空っぽだった。
ルインフィートはつい先日、自分が風邪を引いていたという事を思い出した。それは今までたいした病気などしたことのなかったルインフィートが死ぬかと思ったほどの酷い風邪だった。高熱にうなされ、声もまともに出なくなってしまったのだ。
ハルマースの看病のおかげでルインフィートは回復したが、今度はハルマースがその風邪に侵されてしまったのだ。
頑丈な自分でも根をあげた風邪である。ルインフィートはこのままでは体の弱いハルマースは死んでしまうのではないかという危機感に捕らわれた。
ハルマースはルインフィートが慌てていることに気がついたのか、息を荒げながら無理に身体を起こそうとした。
「駄目だよハルマース、寝てるんだ」
ルインフィートは慌てて彼の元に寄り、その熱い手を握り締めた。いつもの冷たい手との格差ににルインフィートはぞっとした。ハルマースは眉間に皺を寄せて、悔しそうな表情でルインフィートを見つめた。
「ハルマース……」
ルインフィートは、
- 神聖魔法による治療をしてもらおうと思い、ガーラの住むザハンの家へと向かった。
- 風邪薬を買いに、町外れの薬局へ向かった。